味の満たないま

もういつの頃からか、今お世話になっている散髪屋さん(床屋)に通い始めて20年になります。
今の住み家に移る前からですから、引っ越して遠くになってもこだわって通っております。
勤め人ならとうに定年を越えたお歳のマスター。
私が通い始めたあの頃には幾人かのスタッフがいましたが、今はおひとりで切り盛りしておられます。
そして何より、新規顧客開拓には興味もないようで、
私のように長年通う固定客だけを相手に、「新規客はいらないよ(マスター・談)」と言います。
じゃ私も、「最後まで面倒みてよ、他所は行く気ないからね」と(笑)
たぶん、その刀尽きるまで…というか、ハサミ尽きるまでご縁は続くと思います。
マスターは昔ながらの職人気質で、カットしながらウンチクを語ります。
私も随分と、奥深い理容の世界を聞かされました。
今では自分のハサミを研ぐ人も稀だそうで、
刃物は違えど、かつて私の親父が語ることとの共通点が、
なんだか聞いていて「うんうん」と頷くことも多かったと思います。
私も子供のころから親父の道具(刃物)の手入れを見て育ちましたから。
「その人の道具を見れば、仕事ぶりが見えてくる。」
たしかに、そうなんだと思います。
私の職業には少し縁遠い話かもしれませんが、
やはり、そうしたマインドはどこかで活かしてゆけるものと、心にずっと備えております。
さて、そうした道具。 こと刃物の世界なのですが、
素人にはわからない、用途によって研ぎ方ひとつ違います。
そして何よりも、自分で研ぐからこそ少しでも切れ味が劣っていたらすぐさま研ぐそうです。
研ぎを外(刃物店)に出している人は、こまめに研ぎに出すわけにはいきませんから、
使うにつれて減る切れ味、つまり完璧な切れ味の満たないまま使い続けることになります。
したがって、その仕事ぶり(出来栄え)も、おのずと…。
最高の仕事とは、やはり「道具から」という理由はここにあります。