音を立てなが

小学生の頃、祖母は小田原に住んでいた。小高い山の中腹にある小さな家の裏は雑木林で、夏休みに泊まりにいくと、蝉の声がまさに時雨のように降っていた。
あたしは蝉そのものよりも、なぜか蝉の抜け殻が大好きで、草むらに落ちているそれを拾っては、しげしげと眺めていた。背中の割れ目から脱皮するのは分かるにしても、かくかくした細い足や、その足についた棘のような突起までがきちんと空洞で、不思議でしかたがなかった。いったいどうしてこんなにきれいに脱げるんだろう。
光にかざして眺めては虫かごに入れ、また見つけては光にかざし。気づけば虫かごいっぱいに、蝉の抜け殻。嬉々として持ち帰り、部屋に置いて眠ったら、夢を見た。
蝉の抜け殻が、かさかさ、かさかさ、音を立てながら籠から抜け出し、かさかさ、かさかさ、窓をあけて外に出て行く。月の明かりに、からだを透かして。
翌る朝、起きるとすぐに籠を手に、外に出た。雑木林の入り口の大きな木の根元に、虫かごから取りだした蝉の抜け殻をそっと並べた。ごめんね、帰りたかったんだね、と、胸の中で謝りながら。